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宇都宮地方裁判所 昭和52年(行ウ)7号 判決 1980年9月11日

栃木県下都賀郡国分寺町大字小金井七四番地

原告

生井陸之進

右訴訟代理人弁護士

石川浩三

石川清子

栃木市本町一七番七号

被告

栃木税務署長

川俣一郎

右指定代理人東京法務局訟務部検事

布村重成

同同法務事務官

三上正生

同宇都宮地方法務局訟務課長

高塚育昌

同同訟務係長

大掛正二

同関東信越国税局直税部

国税訟務官室主任国税訟務官

井出吉雄

同同大蔵事務官

岡田繁儀

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五〇年九月一一日付けをもってした昭和四九年度所得税更正決定のうち本税額を二〇二万二〇〇円とする決定及び重加算税三〇万三〇〇円の賦課決定(ただし、国税不服審判所長の裁決により取り消された、過少申告加算税五万円の限度を超える部分を除く。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、昭和四八年一一月末か一二月始めごろ、その所有にかかる栃木県下都賀郡国分寺町大字小金井字東原二七五二番一及び同所同番四ないし八各畑合計面積九四四・八一平方メートルの各土地(以下「本件土地」という。)を訴外池誠一郎に売り渡し(農地法三条所定の許可は昭和四八年二月)、昭和五〇年三月一五日、その売買代金を一一四〇万円、これによる分離長期譲渡所得金額を六三五万九八七三円、昭和四九年度税額を一〇一万八四〇〇円とする所得税の確定申告をし、その税額を納付した。

2  ところが、被告は、右売却代金は一六四〇万円であるから、分離長期譲渡所得金額は一一三六万八七一八円、昭和四九年度税額は二〇二万二〇〇円であるとし、昭和五〇年九月一一日付けをもってその旨の昭和四九年度所得税更正決定及び重加算税三〇万三〇〇円の賦課決定をした。

3  原告は、同年一一月一一日これを不服として異議申立をしたが、昭和五一年一月一四日棄却されたので、同月二一日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、昭和五二年五月三〇日重加算税の賦課決定につき過少申告加算税五万円の限度を超える部分は取り消され、その余の部分に対する審査請求は棄却された。

4  しかし、本件土地の売却代金は申告したとおり一一四〇万円であるから、これが一六四〇万円であることを前提とする請求の趣旨記載の各決定は違法である。

よって、原告は、右各決定(ただし、右のとおり国税不服審判所長により取り消された部分を除く。)の取消を求める。

二  被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認め、同4は争う。ただし、1のうち本件土地の売買の成立は、昭和四八年一一月中である。

2  原告の昭和四九年度分の所得の種類別内訳は左のとおりである。

<省略>

3  被告が右年度における原告の長期譲渡所得金額を一一三六万八七一八円とした計算経過は左のとおりであり、本件更正処分及び重加算税の賦課決定は、被告が本件土地の譲渡価額を一六四〇万円と認定したことによるものである。

<省略>

三  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張2、3の事実は、本件土地の売買価額の点を否認し、その余の事実は認める、税額の計算関係を争うものではない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一一号証(第一二号証は欠番)、第一三ないし第一六号証

2  証人田中守、同鶴見勝二、同池誠一郎、原告本人

3  乙第三号証の成立、同第八号証の原本の存在成立はいずれも認める。その余の乙号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし四、第三ないし第八号証

2  証人池誠一郎

3  甲第二ないし第四号証の成立は、いずれも郵便官署作成部分のみ認み、その余の部分は知らない。同第一一号証の成立は知らない。

その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求の原因1ないし3の事実(ただし、同1のうち原告が本件土地を売却した時期の点を除く。)及び被告の主張2、3の事実(ただし、同3のうち原告の訴外池誠一郎に対する本件土地の売却価額が真実一六四〇万円であったか否かの点を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  右のとおり争いのない事実から明らかなように、請求の原因2掲記の被告の原告に対する本件更正処分は、原告が本件土地の売却代金は一一四〇万円であったとして所得税の確定申告をしたのに対し、被告が右代金を一六四〇万円と認定したことに由来するのであるから、右認定の当否について検討するに、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一、第四、第五証、証人池誠一郎の証言及び原告本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)によれば、原告は、昭和四七年ごろから本件土地を売却する意向を持っていたが、たまたま昭和四八年七月ごろ、かねてから面識のある訴外池誠一郎との間に本件土地の取引について交渉をもつようになったこと、池は、当初は、他の土地との交換により本件土地を取得したい意向を示したりもしたが、原告においては当時農協からの借金の返済資金を必要としていた事情もあって、両者間で売買契約を結ぶこととして代金額について数次にわたり折衝が行われたこと、その結果同年一一月、右両名の間において坪単価六万円、金額の計算上は私道部分一六坪(五二・八平方メートル)を除いて二七四坪(九〇四・二平方メートル)として計算することとし、代金総額を一六四〇万円と定めて本件土地を売買する旨の合意が成立したことを認めることができる。

三  (反証について)

ところで、原告と池との本件土地の売買契約についての公正証書正本である甲第一号証には、代金を一一四〇万円として右売買契約を交わす旨の記載があり、また、昭和四九年一月になってから原告が池に対し、右売買についての農地法所定の手続を採るように催告した内容証明郵便である甲第二号証ばかりでなく、そのころ池が原告に対し、本件土地の売買代金のうち既払分八〇〇万円の領収書の交付を要求した内容証明郵便である甲第三号証にも、右売買代金は一一四〇万円である旨の記載がそれぞれ見受けられ、更に、原告本人は、右代金は一一四〇万円であった旨るる供述するので、これらの点について判断する。

前掲各証拠のほか、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六、第七号証、原本の存在・成立について争のない乙第八号証を総合すると、次の事実が認められる。

池は、昭和四八年一一月末ごろ本件土地買受けの手付金として現金一〇〇万円を原告方に持参して提供したが、原告は、金額の僅少を理由にその受領を拒み、池に対し手付金として八〇〇万円を持参するように要望した。そこで、池は、原告の要望を容れ、同年一二月一一日、訴外国分寺農業協同組合振出の金額八〇〇万円の小切手を原告宅に持参し、原告に交付しようとしたところ、原告は銀行に取引がないことを理由にその受領を拒絶し、現金を持参するように池に指示したため、池は、やむを得ず右小切手を持ち帰り、同日これをいったん足利銀行小金井支店に預け入れた。池は、そのころ、原告から本件土地の売買代金のうち五〇〇万円をいわゆる裏契約分にして欲しい旨の依頼を受けたため、裏契約は普通の事と考えて気安く承知した。池は、同月一七日、原告から手付金の支払を催促されたため、原告を伴って足利銀行小金井支店に赴き、自己の預金口座から八〇〇万円を払いもどし、同支店応接室において同行員から受領し、同支店の支店長及び次長の立会いの下で右八〇〇万円を原告に交付しようとし、他方、銀行側は原告にその八〇〇万円を同銀行に預金するように勧めたところ、原告はこれを断り、自宅で受け取ることにするとして同銀行での受領を拒絶した。そこで、池は、同日その足で原告とともに原告宅に赴き、同人に対し右八〇〇万円を支払い、原告はこれを受け取って池の面前において自らの金庫に収納した。池は、その際原告に右八〇〇万円の領収書の発行を求めたが、原告は、支払の事実は公正証書に記載するのでその必要はないとして領収書の発行を拒否した。このような経過から、同日、右両名が公証人役場に赴いて作成を受けたのが前掲甲第一号証の公正証書であるが、右公正証書には、原告の申立により、前記のとおり売買金額は一一四〇万円とされ、手付金については三〇〇万円の授受しかなかったように記載されたのである。池としては、既に公証人により記載されてしまった以上訂正はしてもらえないと考え、また、前記のとおりの裏契約を承知していた関係もあって、公証人役場において異を唱えることはしなかったものの、そのような記載に不満と不安を覚え、即日、土地家屋調査士である訴外高橋信夫に相談したところ、同人から、池が本件土地を転売する場合には裏契約は困難であって、原告が負担すべき税金のうち裏契約によって負担を免れる分は池の負担となることや原告の信用性について聞かされ、その日の夕方再び原告方へ出向いたのを始めとしてその後数次にわたって公正証書に記載されている三〇〇万円を控除した五〇〇万円の領収書の発行を求めたが原告はその都度池が裏契約に合意したこと及び手付金として三〇〇万円の授受があったことは公正証書に記載されていることを理由に、領収書の発行を拒否した。原告は、この段階においては、本件土地の売買代金が一一四〇万円であると言い張ったり、八〇〇万円の受領を否定するようなことは述べていなかったが、池が原告に不信をいだき、本件土地の売買を維持するのに不安を感じて右売買についての県知事に対する所定の手続を延引していたところ、昭和四九年一月になって原告から池の下に突如として売買代金は一一四〇万円であるとする前掲甲第二号証が寄せられたのである。池が原告に差し出した前掲甲第三号証にも前記のとおり右と同趣旨の記載がされているのは、池から甲第二号証の内容証明郵便に対する返書の作成を依頼された前記高橋信夫が、原告において一一四〇万円の売買であったというのなら、池は残金を三四〇万円とすればよいと考え、いわば右甲第二号証の記載を受けて代筆したことによるものである。池は、高橋の右のような意見もあったため、その後原告に残金は三四〇万円になるはずとしてその支払を申し出たが、原告からは、そのようなことでは登記に協力しないと一蹴され、同年三月一九日に原告に対し残金八四〇万円を支払った。

右のとおり認めることができ、原告本人の供述中、池は足利銀行小金井支店から前認定の経過で原告方に持ち運んだ八〇〇万円について、原告に対しては三〇〇万円のみを支払い、残金五〇〇万円は他の取引資金に流用したいとして持ち帰ってしまったとする部分等右認定に反する部分及び甲第四号証(原告の池に対する内容証明郵便)中、池の原告に対する昭和四八年一二月一七日の支払は三〇〇万円であって八〇〇万円ではないとする部分は到底信用できない。

右認定事実によれば、前掲甲第一ないし第三号証中本件土地の売買代金についての記載は、それが真実一一四〇万円であったことを示すものではなく、また、二の認定に反する原告本人の前掲供述部分も、池とのいわゆる裏契約を盾として本件土地の売買代金一六四〇万円を悪くまで隠ぺいしようとするものであることが明らかであり、いずれも二の認定を左右するに足りない。

二の認定を左右する証拠は、ほかにない。

四  前認定のとおり原告の池に対する本件土地の売却価額が一六四〇万円である以上、これを前提として被告のした本件更正決定及び重加算税賦課決定(原告の主張にかかる国税不服審判所長により取り消された部分を除く。)は、税額の計算関係は原告において争うものではないので、いずれも適法というべきである。

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥平守男 裁判官 卯木誠 裁判官相良甲子彦は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 奥平守男)

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